アビダルマは仏法の学術研究書
で、部派仏教といえば「アビダルマ」です。「論書」と呼ばれる仏法の研究書です。
で、このアビダルマ(論書)は、各部派で研究が繰り返されて、各部派がそれぞれのアビダルマを著し所蔵するようになります。
このアビダルマ論書が、各部派仏教の個性となっていきます。
アビダルマは、いわば「学術研究書」なんですね。あるいは学術論文集。しかも阿羅漢という悟った人達が何人も一緒になって書き記した共同研究と共同執筆の論文集です。
アカデミックなんですね。実際、アビダルマは、一糸乱れない完璧な論理構造を取っています。大変ロジカルです。また精妙です。
現存するアビダルマは2書のみ
しかしながら現在、アビダルマ(阿毘達磨)として残っているのは、
・分別説部・・・七論
・説一切有部・・・六足発智(七論)
の2書のみになります。
テーラワーダ仏教圏で所蔵しているパーリ語による分別説部のアビダルマと、中国仏教で漢訳された説一切有部の阿毘達磨(アビダルマ)。この2書だけが現存しています。
アビダルマは各部派が所蔵していた
しかし本当は、最低でも18種類のアビダルマがあったわけですね。
ですのでテーラワーダ仏教圏のアビダルマ(七論)をもってして「これこそが唯一」とするのは、ナンセンスほかならないことがおわかりかと思います。
説一切有部の論書(六足発智)もあります。また正量部、経量部、法蔵部、大衆部など、それぞれ論書を作成し所蔵していたんですね。本当は。現在読むことができるアビダルマは、極々一部になるってことです。
ちなみに日本では、説一切有部の論書の注釈の解説書を基にして倶舎宗も誕生しています。実のところ日本では、奈良時代に、アビダルマを基にした宗派が誕生しています。
分別説部「七論」
で、テーラワーダ仏教は、上座部系の「分別説部」が伝播していった部派仏教です。で、分別説部が所蔵しているアビダルマこそが「七論」ですね。
分別説部・・・七論
1.法集論
2.分別論
3.界論
4.人施設論
5.双論
6.発趣論
7.論事
となっています。また分別説部のアビダルマ入門書として、10世紀の頃にスリランカのアヌルッダが「アビダンマッタサンガハ」を著しています。このテキストは初学向けのわかりやすい副読本となっています。
説一切有部「六足発智」
インドの部派仏教では、最大の勢力だったのが説一切有部です。学術と理屈に行き過ぎてしまいますが、このことは後に、龍樹から大々的に批判を受けます。
しかし龍樹に批判を受けても、その後もインド仏教の主流派・最大派閥として、インド仏教が滅亡するまで存続し続けます。
そんな説一切有部では、
説一切有部・・・六足発智(七論)
1.集異門足論
2.法蘊足論
3.施設足論
4.界身足論
5.識身足論
6.品類足論
7.発智論
となっています。主要な論書は「発智論」になります。
説一切有部の発智論の注釈書と解説書も重要な論書
説一切有部の主要な論書は「発智論」になります。しかも説一切有部は、インドで最大派閥であり、中心的存在でした。
ですので「発智論」の注釈として、後に「大毘婆沙論」が登場します。さらに「大毘婆沙論」の解説書として「倶舎論」が登場します。
発智論⇒大毘婆沙論(注釈書)⇒倶舎論(解説書)
説一切有部のアビダルマでは日本でも古くから馴染みがあります。奈良時代に南都六宗として国家が設立した仏教の中には、説一切有部のアビダルマ解説書である「倶舎論」を元にして、倶舎宗が創建されたことは先述の通りです。
アビダルマはブッダ在世の頃から行われていた
このようにアビダルマは、部派仏教時代に活発に著されます。まさに仏法(ダンマ)の分析・分類・考察といった研究書ですね。
しかも阿羅漢らを中心に何人もの解脱者らが共同して研究し執筆した一大学術論文集でもあります。世界最高の精神世界研究書であり、スピリチュアル文献といっていいでしょう。
ちなみにアビダルマは、お釈迦さまが在世の頃から行われていました。お釈迦さまご自身がアビダルマ(ダンマ研究)を推奨していたくらいです。
実際、パーリ仏典・長部経典33経「等誦経(とうじゅきょう)」は、アビダルマ的なお経だったりします。
アビダルマ批判は後世の出来事
仏教史においては、アビダルマ・部派仏教は批判されやすいのですが、本当はお釈迦さまご自身が推奨していたことだったということですね。
元々は有益な活動だったのでしょうが、部派仏教時代には、行き過ぎてしまったのでしょう。
だからこそ、後に中観派の始祖となる龍樹からコテンパンに叩きのめされてもしまうんでしょうね。で、尾ひれが付いて、小乗仏教と罵られるようにもなります。
ちなみに「小乗仏教」という蔑称は、大乗仏教時代に登場した法華経などを信奉する仏教もどきの人達が言い出したことだったりしますね。闘争心に満ちた無知な在家らによる衆愚運動から広まったプロパガンダです。
しかしながらアビダルマそのものは有益であり、お釈迦さまが推奨していたことだったということですね。ここはしっかりと押さえて理解する必要があります。